オーデュボンの祈り
「人の価値はないでしょうが、それはそれでむきになることでもないでしょう」
(単行本P217より)




警官に追われていた伊藤は、いつの間にか辿り着いていた、見知らぬ島で眼醒めた。
150年前から「鎖国」状態であるその島には、なんと喋るカカシ、しかも未来を予言できるカカシが居た――。



 カカシ…の場合は、殺人事件?殺カカシ事件?(笑)
 未来を予言できるはずのカカシは、なぜ殺されたのか。殺されることが予言できなかったのか、それとも…?というのが、この不思議な事件の「謎」です。

 伊坂作品はどれもそうですが、いわゆる「ツカミ」がとても良いですよね。あまりに突拍子もないものだから、思わず惹かれてします。今回も、舞台が奇妙というのもありますが、なにせカカシですからね!(笑)
 カカシの他にも、登場人物がみんな面白いし個性的。私としては、「桜」という登場人物が好きです。

 エピソードにいつも二重の意味があるのが、伊坂作品の特徴だと思います。伏線の張り方、なのですが、それが描かれたときにもちゃんと意味のあるエピソードなんだけれど、あとから読み返すとそれが別の伏線にもなっているという。その回収の手際はとても見事です。支流が合流して河になるかんじ。
 かなりの長さはありますけれども、是非、最後まで読んで頂きたい一冊です。

 あとは、タイトルもいつも良いですよね。今回のも、タイトルとそれに籠められた意味がとても好きです。





<!以下、ねたばれです!>






 ラストがっ。これはもうラストがっ!
 アルトサックスを持って丘に行くシーンが、とても良かったです。そこまでの長さとかが全く気にならなくなったというか、むしろこのためにこの長さがあったんじゃないか、とまで思ってしまうラストでした(笑)

 実は途中まで、ほんの少し、冗長かな、とは思ったのです。退屈はしなかったですけれども、島の外の話は、必要なのかな?と疑問に思ったりしたのです。
 が、最後の最後で「欠けているもの」が解ったときに、成程!と思いました。このために静香はアルトサックスを吹くというエピソードがあったり、「誰かに待っていて欲しい」という人物像があったりしたんだな、と。あの「君を100年待っていたんだ」という台詞、好きですねえ。

 同じく挿話的に語られる、優午が作られたシーンのほうは、はじめから無駄とは思いませんでしたけれど、これもやっぱり最後になって、本当にこのエピソードがある意味が解った感じ。あの終わり方、私はとても好みです。

 優午が間接的に自殺した、というのは、なんとなく予想がつきましたが、それで面白さが変わるわけでもなく。頭を持ち去ってもらった理由が、謝りたかったからだったり、おそらくサックスの音を近くで聴きたかったからだったり、そういう「なぜ?」の部分が、本当に良かったです。

 他にも、園山さんが奥さんのために描いた絵のエピソードとか、桜とか、もちろんオーデュボンとか、「優午」を作ろうとする少年とか、…細かい「好きなところ」を上げればきりがない、そんな作品でした。
 あ、なにげに、表紙も好きなんですけれどもね。


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