ラッシュライフ
「神様の役割ってのは本来、あらゆる人間にキスしてやることじゃねえのか」
(単行本P104より)




「人生の勝利者」である画商、神を解体する男、泥棒のプロフェッショナル、不倫と殺人計画…。
いくつもの物語が交錯し、絡まりあう「ラッシュライフ」。



 それぞれ全く違う、5つの物語が平行して語られて行きます。
 総てが最後に収斂していく過程が綺麗なので、最初のほうの細かい伏線を忘れないうちに、一度に読んでしまったほうが楽しいかと思います。

 ミステリかというと微妙なところですけれども、この物凄く巧妙で絶妙な伏線の張り方はまさに「本格」。ミステリっぽい「バラバラ死体の謎」も面白くて、その解決も納得です。
 物語はけっこう淡々と進みますが、色々なものが繋がってくるラストは、眩暈がするくらいです。

 もちろん、5つの物語は伏線として機能しているだけじゃなくて、それぞれがとても面白いのです。短編として面白くて長編としても面白い。素敵です。
 伊坂作品の中では、どちらかというと『重力ピエロ』や『アヒルと鴨のコインロッカー』の方が好みだったので、本作には★3つを付けましたが、他の作家さんの作品と並べたら、★4つか5つ、間違いなくつけると思います。読み終わってもう一度読み返したくなる作品。

 あと、「オーデュボンの祈り」を読んでいると、ところどころで更に楽しめますので、そちらを先に読了することをおススメします。





<!以下、ねたばれです!>






 時間軸がずれているんだ!と気づいたラスト近くで、俄然、面白くなりました。
 外国人の女性が持っているスケッチブックにそれぞれが文字を書くから、まるで全部の話が同時進行だったように最初は思わせられます。しかもこれ、種明かしのあとでは、「文字を書いた順番」という語り方で、それぞれの物語の時間軸が整理されている。上手いなぁと思います。

 それぞれのパートが繋がるまではわりに長さがありましたが、私は泥棒の黒澤さんと、「神」の高橋さんにまつわるエピソードが個人的に興味深かったので、あまり気にならずに読めました。
 抜き書きにも使いましたが、このひとの「神様」観とか、好きです。蚊に喩えたり、胃に喩えてみたり(笑)、このひとは頭が良いひとなんだなあと思います。

 あ、ただ、「高橋」さんの正体が気になったのと(いや、単に純粋に「そういうひと」なのかも知れませんが)、老夫婦の持っていた拳銃だけが妙に浮いている感じがしたのですが。そこだけ少し、気になったかな。
 でもあの老夫婦、なんとなく好きで(笑)、そのへんは些細な問題なのですけれど。

 そうそう、それぞれのパートの前に小さなマークがついているのが好きでした。誰の視点なのか混乱せずに読めるし、ちょっと可愛いし。泥棒パートのマークがとても「あ、黒澤さんっぽい」という感じでした(笑)


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