グラスホッパー
「実際に、痛い目に遭わないと、誰だってそれを認められないんだ」
(単行本P168より)




妻の復讐をするため、非合法の会社に就職した鈴木。「自殺屋」の鯨。「殺し屋」の蝉。三人の男が、「押し屋」の男をめぐって奔走する。
交錯する彼らの物語が、最後に迎える結末は…?



 鈴木の妻を殺した寺原と、その寺原を殺した「押し屋」。ひとを自殺させる能力を持つらしい鯨。罪悪感なしに人殺しをする蝉。3つの物語が着かず離れずで同時進行していく長編。
 伊坂作品は、長さに無駄がないなあ、と思います。「この内容でこの長さは長すぎる」とか、逆に「短すぎる」ということがなくて、丁度よいかんじ。この「グラスホッパー」もそうでした。

 伊坂作品にしては、比較的、話の展開は読み易かったです。が、それでもところどころのリンクの仕方や伏線がやっぱり綺麗で、面白かったです。
 推理小説ではないんですけれど、推理小説だとしたら本格モノ、みたいな感じ。ヒント(伏線)がちゃんと散らされているから、「言われてみれば!」みたいな快感が色々なところで味わえます。ちゃんと考えれば読めたのに!と悔しくなる感じが、本格ミステリっぽい(笑)。

 あとは、キャラクターも良い感じでした。
 鈴木さんとか、回想で出てくる奥さんとか、槿(あさがお)とかすみれとか、個人的に好きです。鯨の設定も面白かったですね。

 伊坂作品にしては、ときどきグロテスクなシーンがありますので、苦手なかたはちょっとだけご注意。





<!以下、ねたばれです!>






 読み終わるころに気が付いて驚いたんですが、これ、ラストシーン以外は殆ど一日の出来事なんですね…。すごい一日だ。

 今回、いちばん印象に残ったシーンがふたつありまして。
 ひとつはタイトルの由来っぽい「バッタ」の話です。なんかこういう群集型の話って、そういえば高校の頃に生物でやった気がするな…と思いながら読んでいました。

 もうひとつは蝉の、「どうして女子供はみんな殺せないのか」という台詞。
 言い方が悪いんですが、私はけっこうこれに共感(というかなんというか)しました。私も不思議に思っていたことなので。殺したらいけないのは老若男女変わらないはずなのに、どうして女性や子供だとよけいに可哀想だと言われるんだろう、と(勿論、だから殺して良いと言いたいわけではないんですけれどね)。
 そういうわけで印象に残りました。

 あと好きなシーンは、槿と鈴木さんの会話シーンかな。家庭教師とか口走ってしまう鈴木さんとか、ブライアン・ジョーンズがローリング・ストーンズにいた証拠の話をしちゃう鈴木さんとか、思わず笑いました(笑)。
 ラストのほうで、違う住所を教えていた、というところとか、鈴木さんが奥さんの声を聴くシーンとか、(ある意味ではありきたりと言ってしまえばその通りかも知れませんけれども)とても良かったです。

■追記:槿■
 ちなみに私は槿がすごく好きなんです。それで思わず漢字を調べたんですが(笑)、やっぱり「槿」は「あさがお」という読みでは載っていませんね。ただ「むくげ」には「槿」と「蕣」という字があって、「蕣」のほうは「あさがお」とも読むらしいです。
 あと、もうちょっと調べたら、むくげは、古くは「あさがお」と言ったんだとか。どうでもいいことなんですが、へえ〜と思いました。

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