チルドレン
「『絶対』と言い切れることがひとつもないなんて、生きてる意味がないだろ」
(文庫版P136より)




陣内、という男がいる。
絶対だ、が口癖で、ギターが好きで、おしゃべりで変人な彼の周りで起こった、いくつもの事件と小さな奇跡の物語。



 短編連作ではありますが、著者ご本人がおっしゃっているように、「短編のふりをした長編」です。長編として読んだほうが、より面白いです。

 話の軸になるのは陣内、というひと。破天荒で傍若無人、あらゆる騒動の種になる傍迷惑で、でも憎めない男。『陽気なギャング〜』の響野にちょっと似ているかも。そんな彼と、彼に巻き込まれた人々の物語です。日常ミステリと普通のミステリのあいだくらいのイメージ。さらっと、というか、からっとしていて、とても読み易いです。
 主軸になるのは陣内ですが、陣内が主人公というより、ちょっとした群像劇のようでもあります。全体的に、ミステリテイストではあるけれど、「やられたー!!」というよりは、「あ、やられたなぁ(笑)」といような作品。

 相変わらずストーリーは上手く説明できないのですが…、取り敢えず最初の「バンク」は、陣内と友人の鴨居が、銀行強盗に遭遇して人質に取られてしまう話です。のちのちまで付き合いの続く永瀬との出会いでもあり。
 この話は、伏線処理がいちばん良かったのではないでしょうか。銀行強盗の逃亡方法に思わず笑いました(笑)。上手いです。

 でも、私が一番好きな話は「チルドレンU」。好き嫌いはあると思いますけれど、おススメです。

 それから今回は、物語そのものが面白かったのは勿論ですが、それぞれのキャラクターの良さ、というのも大きかったと思います。★3つか4つでかなり迷いました〜。気持ち的には3.5くらいで(笑)。





<!以下、ねたばれです!>






 陣内も鴨居も武藤も永瀬も優子もベスも(笑)、大好きだ!
 と、読んだ瞬間に思いました。この物語の終わり方とか、このキャラクターたちとか、とても好きです。

 最後の「イン」、永瀬視点ならではのちょっとしたミステリで、とても良かったです。熊の着ぐるみ…(笑)。しかもここで、陣内がお父さんを殴った話に繋がるんですね!この帰結はとても好きです。
 そういえば、「レトリーバー」って、「イン」よりあとの話なんですね。はじめ読んでいるときは気づかなかったけれど。永瀬と優子が話していた「一年前」って、「イン」のときのことですよね?

 私がいちばん好きなのは、上にも書いたように「チルドレンU」です。
 理由というか、好きなところは、「拡大解釈すれば奇跡の一種」と武藤さんが思考するところ。大袈裟な奇跡とかではなくて、こういう形の奇跡っていうのは、あっても良いんじゃないかなあ、と思えました。
 ちなみにこれはなんというか…、一歩間違えればご都合主義になりかねない物語だと思うのですが、伊坂作品だとそれがとても好きだから不思議。伏線を張るのが丁寧だからでしょうか?

 今回の名言は勝手に、「チャイルドは複数形になるとチルドレン。別のものになっているんだ」というアレと、鴨居の「パンの耳」の喩えだと思っています(笑)。
 あの喩えを読みながら、顔が緩みそうになりました。確かに、陣内みたいな人間が身近にいたら、被害は甚大でしょうねえ(笑)。


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